文化財保護法改定問題に関する声明

声明

日本歴史学協会文化財保護特別委員会から出された声明に当会も賛同いたしました。
声明文は下記の通りです。

文化財保護法の改定に対し、より慎重な議論を求める声明

 私たちは文化財保護法の改定に対し、より慎重な議論を強く求めます。

 2017年8月31日、文化庁のホームページ上に「文化審議会文化財分科会企画調査会中間まとめ」が公表され、現在、意見募集(パブリックコメント)が行われています。これは、5月19 日に文部科学大臣から、文化財の確実な継承に向け、未来に先んじて必要な施策を講じるための文化財保護制度の在り方について包括的な検討を求める諮問が文化審議会に対して行われ(「これからの文化財の保存と活用の在り方について」)、今年度中の文化財保護法の改定を視野に、文化審議会文化財分科会企画調査会が検討してきた答申の内容をとりまとめたものです。

 この「中間まとめ」の、背景(Ⅰ)と基本的な考え方(Ⅱ)において掲げられている現状認識と理念は、数次の大規模災害を日本社会が経験したあと、景観も含めた文化財等が一瞬にして失われかねないこと、さらに、大規模災害がなくとも、日々、不可逆的に文化財等失われていることを痛感しているわれわれと共通のもので、大いに共感するところです。
 また、個別の論点についても、単一もしくは複数の自治体により、未指定文化財も視野に入れた「地域における基本計画」の策定(Ⅲ1(2))や、「ノウハウを持った支援者」の積極的な位置づけ(Ⅲ2(1))、「文化財のデジタルアーカイブ」の必要性(Ⅳ(4))の提起等は、その方向性については共有できるものと考えます。
 特に、最後に「中長期的観点から検討すべき課題」として挙げられている、文化財行政に関わる人材や学芸員等の一層の育成、大規模災害発生時の文化財レスキュー等については、具体的方策の検討に早急に着手すべきで、課題が指摘されたこと自体がその出発点としてきわめて重要であると考えます。
このように、「中間まとめ」には継続的に議論されるべき、積極的な論点が多く提出されています。

 しかし、他方で、今回の動きの発端となった文部科学大臣の諮問は、2016年3月30日に「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」が示した、「明日の日本を支える観光ビジョン-世界が訪れたくなる日本へ」を受けたものです。このビジョンでは、「観光は、真に我が国の成長戦略と地方創生の大きな柱である」との認識の下、「『文化財』を、『保存優先』から観光客目線での『理解促進』、そして『活用』-『とっておいた文化財』を『とっておきの文化財』に-」が掲げられ、「2020年までに、文化財を核とする観光拠点を全国で200整備、わかりやすい多言語解説など1000事業を展開し、集中的に支援を強化」することがうたわれています。
 つまり、文化審議会文化財分科会企画調査会が検討しているのは、文化財を観光資源として活用し、前記の数値目標を達成するための制度的枠組みを整備するための法改定です。今回の「中間まとめ」のこの方向は、儲かる文化財とそうでない文化財という価値序列を創出しかねず、地域の文化・教育にとって特に重要な文化財であっても、短期的かつ金銭的な利益を生まなければ顧みられなくなる恐れがあります。
 これは、国民の文化的向上と世界文化の進歩に貢献することを目的として文化財を保護するために策定された文化財保護法や、本年6月に改定された文化芸術振興基本法の理念と乖離するものであるといわざるを得ません。

 今、日本は都市への人口集中と地方の衰退が著しく、地域に残されてきた文化財は深刻な危機に直面しています。地域が抱える事情は様々で、そのような危機を真に解決するには、どのような施策が必要とされているのか、個々の地域の状況に即してあらゆる可能性を検討することが必要です。その意味では、上記で方向性を共有できるとした「地域における基本計画」の策定(Ⅲ1(2))や、「ノウハウを持った支援者」の積極的な位置づけ(Ⅲ2(1))などについても、人材や資金の余裕が全くない地方の小規模自治体において、その実施が危惧されるところです。基本計画から漏れる文化財に対する目配りや、計画を実際に支える学芸員等の立場と活躍の場の保障、さらに地域格差が広がらないような施策などが検討されなければ、文化財の保存と活用を巡る状況が、今以上に困難な事態に立ち至るのではないでしょうか。
 また、文化財の保存と活用について、従来から重要な役割を果たしてきた各種博物館に関しても、UNESCOの「ミュージアムとコレクションの保存活用、その多様性と社会における役割に関する勧告」(2015年11月20日)での「加盟各国は、ミュージアムの主要機能は、社会にとって何よりも重要なものであり、単なる財政的価値に換算しえないことを認識すべきである」という指摘がより深く認識されるべきものと考えます。

 先人が残してきた文化財を公共財ととらえ、今に生きる私たちが享受し、未来に継承していくため、また、地域の住民がその地域の文化財を自ら学ぶことの楽しさを知るために、何をなすべきなのか。その答えは、我が国の現状に目を向け、直面する課題を丹念に洗い出す作業なしに見いだせません。これが検討の出発点であり、文化審議会文化財分科会企画調査会がまず果たすべき役割だと考えます。大臣諮問から「中間まとめ」が提出されるまでの期間はわずか3ヶ月であり、十分な議論を尽くされたとは言えず、拙速に過ぎます。

 「中間まとめ」で示された積極的な論点が十全に生かされるためにも、結論ありきの議論ではなく、国民の文化的向上と世界文化の進歩に貢献することを目的とした文化財保護のため、長期的視野に立った十分な議論を尽くすことを求めます。
 また、全国民に、今回のパブリックコメントを含め、あらゆる機会に、あらゆる場所で、議論を行い、今回の文化財保護法改定について意見表明を行うよう求めます。これは国と研究者のみに関わるものではなく、わが国の将来に重要かつ長期的な影響を与える課題です。次世代に何を残すか、が今問われています。

 2017年10月6日

日本歴史学協会、地方史研究協議会、歴史教育者協議会、立正大学史学会、内陸アジア史学会、信濃史学会、東北史学会、ジェンダー史学会、京都民科歴史部会、広島西洋史学研究会、東京歴史科学研究会、広島史学研究会、日本考古学協会埋蔵文化財保護対策委員会、中国四国歴史学地理学協会、東海大学史学会、歴史学研究会、秋田近代史研究会、日本史研究会、交通史学会、文化財保存全国協議会、総合女性史学会、大阪歴史学会、関東近世史研究会、日本風俗史学会、千葉歴史学会、歴史科学協議会、専修大学歴史学会、(追加)歴史資料ネットワーク

追記 2017年10月12日付で賛同学協会が増えました。28学協会による共同声明となりました。
 2017年10月12日                     日本歴史学協会